親友が個展を開くらしい。個展には「杉本恭佑展」と、冠に彼の名前が付いている。何だか私まで誇らしい気持ちになった。展示するのは「写真」と「言葉」。彼がほっと一息つきたい時に決まって訪れる、宮崎市内のお茶屋さん「HAKUGENDO CHAYA」が展示会場だ。彼と出会ってからちょうど10年が経つ。その当時は、写真に興味なんてなかったはずだ。実際、本格的に写真を撮り始めてからたったの2年半なのだと言う。「この短期間で個展を開くまでになれるのか」と驚いた。一方、私は彼の写真が好きだ。なんというか、自然な笑顔に溢れていて、撮影時の会話や匂い、温度が流れ込んでくる。ような気がする。親友を離れて、カメラマンとしての彼の一面を切り取ってみたいと思った。そんなことを伝えると、個展で展示する写真を一足先に見せてくれた。本人も枚数を把握していないほどに、たくさんの写真たちを連れて行くようだ。展示する写真はすべて「人」が主役。本人も「風景や物よりも、人を撮る方が得意」と話す。PCの画面をカタカタとめくりながら見せてもらった写真は、当たり前に素敵な写真ばかりだった。いわゆる「写真館で撮影されていた歴史主義的な家族写真」ではない。目的地に向かう道中で撮った何気ない一枚。撮影の休憩時間におやつを頬張った瞬間の一枚。カメラから目線を外して「恥ずかしいね」と笑い合った時の一枚。一枚。一枚。一枚。写真を紹介する彼からは、撮影時のエピソードや思い出話がとめどなく溢れてくる。カメラ目線の被写体を見つける方が難しい。ひょっとすると「記録として残す」という意味では不十分な写真なのかもしれない。それでも、暖かい雰囲気が流れていて、「きっと写真に写っているこの人は、この瞬間が幸せだったんだろうな」と思わせるような、ぽかぽかした写真ばかりだった。それには、彼の写真撮影に対する向き合い方が影響しているのだろう。彼は「撮影中に自らがコミニュケーションを楽しむことが大事だ」と話す。実際、写真を撮り終わった後に依頼主から「撮影そのものが楽しかった」と言われることが多いそうだ。撮影そのものが楽しいので、自然な表情を引き出すことができる。また、その写真を見返した時に思い返す記憶も楽しいものになる。それが杉本恭佑の写真だ。カメラマンとしてのキャリアは2年半。決して長くはない。一方、この「コミニュケーション」に関しては10年前から特筆すべきものがあった。ここで言うコミニュケーションは、飛び抜けた傾聴力があるとか、相手の理解・納得を得る伝え方が上手いとか、そんなことではない。他者の人生に無償の愛をもって向き合い、真剣になれる。それが彼の魅力なのだろうと思う。大学時代から合同会社を立ち上げるまで、「仲間を増やしたい」との思いは一貫している。彼の周りはその時々でいつもたくさんの仲間に溢れている。親友を自称する私が嫉妬するほどに、他にもたくさんの親友がそれぞれのコミュニティに存在する。そんな人間だ。人がひとつの仕事に対して熟達するためには、通常10年以上の学習が必要であるとされている。カメラマン歴は確かに長くないかもしれない。ただ、この10年間で誰よりも経験学習に取り組んだコミュニケーションをもって、「撮影そのものが楽しい」を実現しているのだろう。最近は、ゼロコンマ何秒の世界で「あ、この後に笑うかも」と想像してシャッターを切ることも増えてきたそうだ。上の写真は彼の地元の友人たちを撮影した一枚。彼が写真を撮り始めてからは、このようなシーンを写真に収めることも増えた。「地元のメンバーが集まると、つい同じような昔話を繰り返してしまう。でも、写真を撮る度に共通の思い出が一つずつ増えて、昔話が更新されていった」、彼はそう話す。「一番思い出に残っている撮影の機会は?」と尋ねると、しばらく悩んで、自らの家族写真の話をしてくれた。母方の祖母と、彼の母親を含む四姉妹の写真。おしゃべり好きだった彼の祖母は、年を重ねるにつれて口数が少なくなっているそうだ。また、彼の母親曰く、家族で最後に写真を撮ったのは「記憶にない」と。写真を撮ろうよ!と誘い、場を構えた。「心から喜んでくれて、本当に嬉しかった」そうしみじみと振り返る5人の写真は、最高の笑顔に溢れる、本当に素敵な写真だった。思い返しても形容する言葉がない。この写真も個展に展示するらしい。ぜひ足を運んでいただきたい。無くしていい思い出なんて一つもないんだと思う。喜怒哀楽のすべてが、みらいの自分をつくる。一方で、たくさんの思い出のうち、私たちはどれだけの出来事を心に留め続けることができるだろうか。彼の個展には「結び目に在る写真と言葉たち」という副題が付いてる。意志に関わらず流れていく自分の人生に、写真や言葉を使って結び目をつくり、その前後の思い出を留めていく。そんなことを節目、節目で継続すると、大切な人との関係性の質をより高めることができるのかもしれない。カメラマンって、そんな仕事なんじゃないかと思った。なんだよ、めっちゃいいじゃん。私もやってみようかな。ぜひ人生の結び目に写真を撮って欲しい。その時のカメラマンが私の親友であれば、なお嬉しい。—–杉本恭佑展 – 結びめに在る写真と言葉たち –会期:2022年12月3日(土)- 12月8日(木)時間:13:00 – 18:30 ※開催期間中はHAKUGENDO CHAYAも営業します入場料:無料(お茶を注文される方は別途お茶代)展示物:写真と言葉場所:HAKUGENDO CHAYA(宮崎県宮崎市大島町原ノ前1445−202 flower shop HANAVILLA内)駐車場:店舗の駐車場をご利用ください協賛:株式会社ande—–問い合わせ:kysk.kmmt@gmail.comInstagram:https://www.instagram.com/kyochanphoto/Twitter: https://twitter.com/kyomiyazaki——